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シモン・ゴールドベルクの講義録

 

今をさかのぼること約15年、当時のトモノホール(現在は加賀町ホール)で毎月開催されていたゴールドベルク山根美代子先生の公開講座。いろいろな方からすごく勉強になるから行ってみて、と勧められていた。当時家の事情で都内に出かけるチャンスが少なく実際に聴くことができた講座は数回だけど、今でも思い出せるくらい目からうろこ、耳からもうろこ、メリメリと脱皮しそうになるくらいに、楽譜を読みそれを音楽にするとはどういうことか、について叡智の詰まった講座だった。頭脳明晰で容赦なく辛口。

 

その山根先生が通訳を担った(この出会いからのちにお2人は結婚された)ヴァイオリニストのシモン・ゴールドベルクの桐朋学園での公開レッスンをまとめた「シモン・ゴールドベルクの講義録」の書籍とDVDを先日入手した。ブックオフ・オンラインありがとう!

 

山根先生の妹の大木裕子さんによるまえがきより抜粋

 

読譜という静かな知の作業を、演奏という瞬間の生き物に結び付ける作業を言葉を通して伝えることの危険性を、美代子は常に危惧しておりました…中略…講義録はDVDとともに読むことによって、微妙なテクニックのことなども、言葉での説明よりは誤解される危険性も少なく、お手本を目にし耳にしながら、彼の言葉を聴くことができます…後略

 

30年ほど前の記録用のVHSの映像に修正を加えてDVDを作成しているため、画質も音質も十分とは言ええないけれど、書籍には楽譜をたくさん引用し、言い足りない部分は文章で補ったり、この貴重なレッスンを後世に残すために命を注がれたことが想像できる。ああ、もっと早く手に入れるべきだったなぁ。

 

 

この講義録が出版される前に、先生はゴールドベルクのもとに旅立たれた。トモノホールでの最終講義となったレッスンを私は図らずも聴講しており、その日は確かシューマンの2番のソナタの1回目だったのだけれど、受講生に「次の楽章も今日弾けないかしら?」としきりにおっしゃっていたこと、先生のお声、いつもより少し小さくなかった?なんて話を帰り道でしていたことも思い出される。

 

それからずいぶんずいぶん時がたって、2019年、ゴールドベルク山根美代子先生との出会いで音楽家人生が変わったという池浦七菜子先生のアンサンブル講座との出会いへとつながる。

昨日は4回目となるアンサンブル講座の初日。ゲスト講師は2019年と同じヴァイオリンの山田百子先生。

お2人の音楽の土台は山根先生でありゴールドベルクの教えだ、と思う場面が何度もあった。